離婚式誕生秘話

――――2009年3月 都内某ファミレス――――

大学時代の先輩が離婚するというので
長年の疑問をぶつけた。

「結婚式があってなぜ離婚式はないのでしょうか」
小さいころから抱いていた単純な疑問からすべては始まった。

以下、先輩:S 寺井:T
S:「離婚式なんて誰がやるんだ!恥の上塗りだろう」
T:「離婚ってそんな恥ずかしいことなんですか」

S「第一、そんな悲しい式に誰が参列するんだ!」
T:「お葬式以上に悲しい式はないと思います!」

大激論。
日本人は卒業式、引退式など終わりを大切にする民族。
離婚式があっても不思議はないはずです。

T:「よかったら先輩の離婚式をプロデュースさせていただけませんか?」
S:「ふざけるな!結婚したことがないお前に何がわかる。結婚や離婚はお前が思うほど甘いもんじゃない。」
T:「ぜったいに後悔させませんので。良い形で再スタートが切れるようにやらせて下さい!」

先輩の結婚式に参列して2年、
お子さんも生まれて幸せの絶頂にあったはずの二人に何があったのか。
激論を繰り広げるなか、何だか悲しくなってきた。

S:「離婚式、離婚式っていうけど、一体オレに何をやらせる気なんだ?」
T:「結婚式だとケーキ入刀のイメージなので、そうですね・・離婚式だと指輪をハンマーで叩き割るとかでしょうか・・」
とっさにその瞬間に思いついた。

S:「やっぱりお前、ふざけてるだろう。もういい。」
T:「違うんです!真剣にやらせていただきます。だからお願いします。」

先輩のためを思って離婚式を提案したというよりも
正直、長年の疑問を解決したいという気持ちのほうが遥かに強かったと思う。
何度も頭を下げて頼んだ。

S:「指輪を壊すかあ・・確かにそれだけ大きなことをやれば何かが変わるかも知れないな・・・。そこまで言うなら、100歩譲って俺はやってもいい。というかやってやろう。でも嫁がぜったいに反対するぞ。」

ファミレスを後にした私は、先輩の奥さんとも親しかったので早速電話をかけた。
奥さんも先輩と同じ反応で、怒りを通り越して呆れているようにも感じられたが
式の流れを作って、真面目にやってくれるなら、という条件で了承を得ることができた。

結婚式のマナービデオを借りてきて、それを参考にしながら式の流れを考えた。
結婚式では新郎新婦と呼ぶのだから、離婚式では別れる二人を「旧郎旧婦」と呼ぶことにしよう。
幸せの絶頂にあったはずの二人に何があったのか、疑問に思う人も多いはず。
離婚に至った経緯をきちんと説明する必要性を感じた。

先輩の結婚式のときに御親族やご友人の方と連絡先を交換していたので
電話を1件1件かけて
離婚式に参列してもらうよう呼びかけた。

そして、2009年4月。
ご親族やご友人約20人が見守るなか、
記念すべき第一回目の離婚式が新宿の某レストランで開催。

開始早々、後悔した。
今まで味わったことのない重苦しい空気。

参列者の方から「ふざけてるだろう」の声。
「あんたの疑問を解決したいがために俺たちは集まったのか?」

私から離婚に至った経緯を皆さんにご説明。
お二人からのご挨拶。

会場からまったく拍手が起こらない。
先輩のほうを見ると、ほら見たことかの痛い視線。

逃げ出したい気分。
穴があったら入りたいとはまさにこのこと。

しかし、次の瞬間だった。
クライマックスで結婚指輪をハンマーで叩き割った時、
思いがけずお二人の表情がパッと明るくなった。

会場にいる誰もがそれを感じて、自然と拍手が起きた。

ケーキ入刀の時のようにフラッシュこそ浴びることはなかったが
結婚式のときよりもお二人は晴々とした良い表情をしていた。

先輩も奥さんも「これは意外にアリ」という反応。とにかくホッとした。

式もお開きになる頃、先輩のご友人の女性が私の元に駆け寄ってきた。
「招待された時はどんなふざけた式なんだろうと思っていたけど、思った以上に感動しました。
私が離婚する時には、寺井さんぜひ離婚式をやってください。」

このときは冗談だと思っていたので
「ありがとうございます。」と笑って受け流していたが
まさか2か月後にその女性の離婚式をやることになるとは思いもよらなかった。

事実は小説よりも奇なり。
離婚式は私にとってはすっかり日常になってしまったが
いま思うと、不思議なご縁や偶然の賜物だ。